氷雪の殺人

氷雪の殺人 (文春文庫)

氷雪の殺人 (文春文庫)

ちょっと推理小説を読んでみました。この内田康夫氏、最近はちょっと社会派っぽい内容を書く傾向にあるようです。と言っても、自分の主義主張をバリバリに出しまくる感じではありません。主人公が若干左寄りに見えますが、主人公の兄がバリバリの官僚ってことでうまくバランスが取れているような気がします。まあ、右寄りの思想の人は、そもそもこういう軟弱(?)なものは読まないのでしょうけど。
ただ、この作家の作品に共通する傾向として、文系の知識はかなり広い部分まで「常識」とされるのに対して、理系の知識は本当に基礎的な部分でも知らなくて当然という態度と言うことがあります。例えば、利尻島など小学生でも知っていると言っているのに対して、物質がすべて原子で構成されていること、原子は原子核と電子からなること、原子核中性子と陽子からなることなど、物理学の基礎知識はまったく常識とされていません。とりあえず、日本人なら中性子や陽子を結びつける核力の源である、中間子くらいは知っておくべきでしょう。日本人初のノーベル賞物理学者である湯川秀樹氏が予言したものです。少なくとも僕は、クォークレプトンをそれぞれ6種類ずつ暗唱できる人よりも、利尻島を知っている人の方が少ないと思います。また、ちょっとネタバラしになってしまいますが、被害者が遺したCDをCDプレーヤにかけて4分ほどの音楽が流れたと言って、そのまま放置して、CDは最後の方まで出てきません。普通に考えれば、1枚のCDに入っているデータが4分ほどのオーディオデータだけだなんて考えにくいのですが、この作品の「名探偵」は終盤までそれに気付きません。
ところで、終盤になると自衛隊の武官が登場します。海上自衛隊のメンバーらしいのですが、その息子の名前が「海士」ってのは、いくらなんでも偏見ではないでしょうか。もっとも、息子に「球児」って名前を付ける野球バカの親父もいるようなので、海士って名前の人がいてもおかしくはありませんが。普通の人名として見ればいい名前ですし。