霊はあるか

霊はあるか―科学の視点から (ブルーバックス)

霊はあるか―科学の視点から (ブルーバックス)

霊の存在について、きわめてまじめに検討した本です。具体的な場合分けによって思考実験を行っている第3章は、著者自身が馬鹿馬鹿しいと記していますが興味深いものがあります。まず、霊が物質か非物質かというところから検討を始めています。人間の目に見えていて、声も聞こえることから物質でなければならないとし、霊を物質であると仮定した場合に生ずる矛盾を指摘しています。つまり、霊の存在について批判的に取り上げた本です。
一方で、霊を語る上では、科学以外の概念も重要になってきます。人間の価値観や考え方の問題です。この本も、科学的な言及は一部のみであり、多くは霊というものに対するとらえ方をさまざまな角度から紹介しています。スタンスとしては、「霊を信じるのはそれぞれの人により蹴りだが、怨霊の祟りと言ったまともな宗教指導者なら口にもしないようなものを信じるのは問題が多い」と言ったところでしょうか。僕個人としては、血液型性格診断にも通ずる問題ではないかと思います。むしろ、血液型性格診断の問題が「差別の原因となる可能性がある」という漠然としたものであるのに対して、怨霊の祟りという問題では、詐欺によって多くの被害者が出ており、その悪影響はきわめて具体的な状況になっています。
また、最後の章に記された、おそらく筆者個人の考えと思われる価値観に関する言及は興味深いものがありました。要するにものごとは科学的、論理的な視点での真偽だけでなく、価値観の是非という問題もあるのだということです。価値観というのは人それぞれであり、一概に言えるものではありません。しかし、この価値観というのはきわめて重要です。なぜなら、原子爆弾は科学的には間違っていないからです。優れた設計と完璧な製造により、想定通りの効果を発揮しています。しかしながら、価値観の問題で考えれば、原子爆弾は悪に他ならないでしょう。科学的に人を殺してはいけない理由はありません。しかし、世の中の普遍的な価値観から言えば、人を殺してよい合理的な理由などまずあり得ないのではないかと思います。
人間の判断は、究極的には価値観の問題となります。科学の判断はそれに付随するものでしょう。科学がどうあれ、結局はそれぞれの人間の価値観が物事を決めるわけです。僕は科学を信頼しているし、科学で解決できる問題は科学で解決すべきというスタンスではありますが、そもそもの判断対象となる問題を選ぶのは、人それぞれの価値観なのではないかと思います。